現代美術

ロバート・スミッソンのランド・アート スパイラル・ジェッティの魅力

1960年代後半から始まったアースワークス(ランド・アート)で一番人気は、ロバート・スミッソンであろう。

ユタ州のグレートソルトレイクにある代表作「スパイラル・ジェッティ」は、僻地にありながら今でも訪れる人々が止まない。

35歳という若さで亡くなったが、スミッソンは現代美術家であると同時に宗教、鉱物学、サイエンス・フィクションまで網羅する作家であった。

彼の芸術のエントロピーの概念はポストミニマリズムとして、同世代を生きる芸術家たちに多大なる影響を与えた。

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ロバート・スミッソン  学生時代

Robert Smithson - 13 artworks - painting

引用元

ロバート・スミッソンは、1938年1月2日にアメリカ合衆国ニュージャージー州パサイック市で生まれ、9歳までラザフォードで過ごす。その時期の彼の担当医が詩人でもあり、幼い頃から芸術に興味をもち始める。

ニュージャージー州の高校に通いながら、2年間、ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグに在籍。短期間だがブルックリン・ミュージアム・スクールにも在籍していた。

スミッソンは抽象表現主義に興味をもち、特にデヴィッド・スミスの時間の経過と自然力を伴った彫刻に強く惹かれた。

美術以外、地質学、建築遺跡、哲学、言語などは独学で学んだ。 アート・スチューデンツ・リーグ在学中は、多くの思想を同じくする芸術家や詩人と出会う。出版社の知り合いから依頼された雑誌の表紙のデザインも作成した。1956年にアメリカ陸軍予備役に入隊し、1957年にニューヨーク市に引っ越した。

ロバート・スミッソン 1960年代

Plunge 1966

on Entropology

引用元

この室内作品でスミッソンはミニマリストの第一人者とされたが、当時のミニマリズムからは逸脱したところが多い。

「プランジ」は単純な同形状の繰り返しではなく、徐々にサイズが大きく、もしくは小さくなっている階段状のユニットでできており、観賞者の視覚を惑わしている。

この頃、カール・アンドレ、ダン・グラハム、エヴァ・ヘッセ、ナンシー・ホルト、ジョーン・ジョナス、ドナルド・ジャッド、クレス・オルデンバーグ、リチャード・セラなどの仲間のアーティストたちとニュージャージー内外の旅行に出かけるようになった。

ナンシー・ホルトとは1963年に結婚する。

スミッソンの芸術活動は野外が中心となっていき、採石場や人里離れた場所に興味を持っていった。

Chalk Mirror Displacement  1969

John Hansard Gallery - Robert Smithson, Chalk Mirror Displacement, 1969.  Chalk, mirrors (exhibition copy) Collection: Art Institute of Chicago (with  thanks to Southern Gravel Ltd, Oxted Quarry) | Facebook

引用元

この鏡と有機的な素材を組み合わせたシリーズも、スミッソンの「サイト・ノンサイト」の概念に基づいている。

スミッソンは芸術作品とそのまわりの環境の関係を「サイト」(site)と「ノン・サイト」(non-site)の概念を導き出した。大まかに言えば「サイト」は自然物、「ノン・サイト」は人工物である。

一度目は野外(採石場)に設置し、その後ギャラリーに再設置した。これは アートとアートの周りの環境との境界線を意図的に曖昧にしている。

ロバート・スミッソン 1970年代

Spiral Jetty  1970

ユタ州グレイトソルトレイクの北東岸に創られた「スパイラル・ジェッティ」はスミッソンの代表作品であり、ランド・アートと言えば、まずこの赤茶色の渦巻を思い浮かべる人も多いだろう。

この湖岸から突き出した長さ460m、幅4、6mの反時計回りのコイルは、玄武岩、泥、塩の結晶でできている。湖水の色が赤色に近いのは鉄道の出ての建設により、淡水が遮断され、バクテリアや藻類が集中したためだ。そして湖水の増減によりこの作品は見え隠れする。

このスミッソンのエントロピーは文明の進歩による環境破壊も注意喚起しているそうだ。

Amarillo Ramp  1973

スミッソンの存命中の最後の作品。といっても構想のみであり、建設にはかかわっていない。

スミッソンは1973年7月に、パイロットと写真家と一緒にテキサス州のアマリロ牧場を視察していたが、飛行機の墜落事故で亡くなった。享年35歳。

彼の死後、現代芸術家のナンシー・ホルト(妻)、トニー・シャフラジリチャード・セラによって完成された。

アマリロ・ランプは、平地から4.5mの高さまで上昇する直径43mの岩の円形で構成されている。人工湖の麓から出現するように建設されたが、現在は干上がった湖底にあり、浸食によって元の構造は変化している。

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スパイラル・ジェッティやランド・アートの魅力

芸術家によっては、美術館やギャラリーの外で展示する自然と融合する巨大な作品を、アースワークスやランド・アートと呼びたがらない者もいる。自然を自然のものだけで作りあげていない場合もあるからだろうか。

スミッソンの作品の殆どが自然物でできていて、彼のコンセプトの表現であるが、ランド・アートのコンセプトの原点は反体制主義的、反エリート主義的なものを持っていたらしい。

当時のピッピー志向と似たようなもの、文明の進歩への不信からくる大自然への回帰、規制秩序の反抗があったのだ。

しかし、ランド・アートを制作するに当たり現実問題として、莫大な資金が必要となる。スミッソンもどの作品にもパトロンがいたが、彼らは体制側の人間であった。

また巨大な作品を作るには人里離れた不便な場所になり、実際に実物を見に行ける鑑賞者も限られ、万人向けの芸術作品とは言えない。

スミッソンの「スパイラル・ジェッティ」も散歩がてらにいけるような場所にはない。

しかし、誰もが惹かれる渦巻きの形態に、誰もが愛する湖畔に存在する。

現在はディア財団の管理下に置かれているが、どのように保存維持していくかは不明瞭のままなので、スミッソンの望む通り将来は消滅してしまうだろう。

この類まれな美しさと楽しさを持つランド・アートの象徴は、美術史の重要性やスミッソンのコンセプトを考えなくても人々を魅了する。スパイラル・ジェッティを知ってしまったら、何としてでも現存しているうちに見に行きたくなってしまうのではないか。

参考1 ” Robert Smithson and American Landscape” Ron Graziani

参考2 ” Robert Smithson”  Eugenie Tsail with Cornellia Butler

参考3

参考4

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