本・作家

伊坂幸太郎『残り全部バケーション』の登場人物から見る不倫恋愛について

残り全部バケーション』は、余すところなく伊坂テイストが盛り込まれていて、5篇のショートストーリーで構成された痛快な小説です。

裏稼業で生計立てている岡田が、コンビを組んでいる先輩の溝口に足を洗いたいと打ち明けたところ、「適当な携帯番号にかけて、その相手と友達になること」を条件に出されます。

デタラメな番号で繋がった相手とその家族と一緒に、ドライブに行くことになるところから、話は始まります。

偶然なのか必然なのか、何故か繋がりがある人間関係が織りなす、裏切りと友情で結ばれる裏稼業コンビの物語で、エキサイティングなラストシーンに岡田の行く先を想像せずにはいられないでしょう。

このストーリーの登場人物の中で、不倫恋愛をしているカップルが、5組もでてきます。

その不倫の関係はカップルごとに違い様々で、切なさ、滑稽さ、恐怖をも醸し出しています。

彼らの恋愛嗜好や不倫のスタイルをみると、不倫恋愛はどういったものなのか、どのように付き合ったらベストなのかを考えてさせられます。

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「父 早坂 40代前半」

同じ会社の29歳の事務員と不倫をして、離婚、一家離散の問題があがります。

風采のあがらない、お気楽な感じのお父さんが、どうして30歳前の女性と浮気できたかのは、ちょっと謎ですが、この不倫は長続きしませんでした。

お父さんとしては、「ちょっと恋愛で遊んじゃおう」程度で、つきあったのでしょうね。

しかし不倫がばれて、家庭が崩壊。

少しの遊び心が、大きな代償を払うことになったのです。

相手の女性も、同じ気持ちでお父さんとは、真剣には恋愛していなかったようで、このお父さんが離婚しても、結婚とまでは、至らなかったわけです。

彼は、これから、一人で生きていかなくてはならないのです。

40歳すぎてからの、一人暮らしは、さぞ寂しいことでしょう。

実はこのお父さん、離婚には未練タラタラで、復縁したいのです。

が、奥さんと子供が許してくれないので、離婚にいたったようです。

結婚していても恋愛をしたい気持ちがでるのは仕方ないですが、家庭崩壊という最悪の事態も考慮して、不倫すべきですよね。

母 早坂 (当時推定20代半ば)」

お母さんの不倫は、お父さんと結婚する前、独身の時のことです。

相手はお金持ちの既婚DB男でした。

若き日のお母さんは、経済的には豊かなこのDB男に、アルバイトまでして、貢いでいたんですね。

DBを受けている女性の殆どは、マインドコントロールされてしまい、正常な思考が保てないとも聞きます。

もし、マインドコントロールされていなかったのなら、尽くす女の典型、もしくはダメンズメーカーだったのでしょう。

これだけつくせるのなら、よほど相手のことを好きだったのですね。

「恋は盲目」といいますが、「不倫」は通常の恋よりも、違うスパイスが加わり、のめり込んでしまう確率は、高いものです。

「冷静になれない」というのも不倫恋愛の危険な点です。

「権藤 文具店経営 50代半ば」

こちらのおじさんは、素人娘ではなく、水商売の若い女性を相手にしていました。

いわばビジネスの関係ですね。

別件で、この女性と付き合っていることが、発覚してしまうのです。

どこで、誰の目が光っているかわからないので、不倫デートは細心の注意が必要です。

このおじさんは、恐妻家らしく、奥さんにバレることを非常に恐れて、岡田に手を貸します。 

そんなに奥さんが怖いなら、浮気なんてしなけりゃいいのに、と思いますが、それでも浮気をしてしまうのには、男の性を感じます。

「わたし 30歳」

有名な国会議員と不倫していました。

彼女の場合は、結構シリアスな思いがあったようです。

妊娠してしまったら、「割り切った関係なんだから、それも割り切れ!」という、サイテー男と付き合っていました。

権力のある年の離れた男性との不倫は、女性が、父親への愛を求めてしまうパターンだと推測されます。

たぶん、彼女は幼少の頃、父親の愛情を十分感じられなかったのでしょう。

この男は、多くの人に恨まれていましたから、殺人計画が実行された時、彼女も少し加担しました。

「割り切れよ」という言葉が、愛を憎悪に変えてしまったのです。

相手を殺すか、自分が死ぬかで、不倫を終わらせる、一番怖い不倫恋愛パターンです。

女性の立場からすれば、自分を粗末に扱った男に復讐した展開ですから、小気味の良い結末ですが、男性から見ればたかが不倫で、自分の人生が終わってしまう最悪な結末です。

好きになった人に自分だけを愛して大事にして欲しいと思う欲望は、人間なら誰でも持っているものですが、既婚者との恋愛なら始めからその欲望と葛藤しているわけです。

感情を自分の中で上手に消化できないと憎しみに変わってしまい、歯止めが効かなければ、相手を葬り去ってしまうという、正気の沙汰ではない行動にでることもあるというわけです。

「僕(当時小学4年生)の父 推定30代後半」

取引先の女性と交際しています。

相手の女性は独身なので、相手の家庭が気になり、息子の「僕」に会いに行ってしまいます。

不倫相手の家庭を知れば益々辛くなるのがわかっていながら、どうしても我慢できず、相手の家庭生活を覗きこんでしまう心理ですね。

愛しく思っている人の幸せそうな家庭を見ると、不倫恋愛を諦める人と、嫉妬に燃える人と、自分がその家庭に入っていると錯覚してしまう人など、反応は人それぞれです。

この女性は、ストーリーの中では、ミステリアスな存在なので、息子に会いに行った真意は何なのだかは、はっきりしません。

もしかしたら、起こりうる全ての感情を抱えていたのかもしれませんね。

彼女が息子に会いに行ったことを知った「僕」のパパは、不倫を隠すために、自分はスパイだなんて、とんでもない嘘をつきます。

奥さんとはうまくいってなくても、子供は可愛いものでしょう。

自分が「不倫」という不道徳なことをしているのを自覚しており、それを可愛い子供に、知られたくないですよね。

でも、いつかは子供にも、分かってしまうものです。

不倫は既婚男性と付き合っている女性のほうが、つらいように思えますが、既婚男性も、子供を愛していれば、家庭と恋人の間を揺れ動き、苦しい思いをしていることでしょう。

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 不倫恋愛はやめたほうがいいのか

この小説の中では、男性が既婚者、女性が独身というパターンだけですが、それでも、5パターンあるのですから、現実では、さぞ、色々な不倫関係があるでしょう。

「不倫はいいのか?悪いのか?」という問いの答えは、人それぞれの考え方によるものです。

ですから、「どんな不倫の関係がいいのか」というのも、人によって様々な答えがあると思います。

私個人としては、倫理観は別として、お互いの共通ルールを守って、付き合っていけるのがベストだと感じます。

もし、今、あなたが、不倫で悩んでいるのなら、まずは、自分らしい恋愛をしているかどうかに、目をむけて、自分にとってどんな愛し方がベストなのかを、ゆっくり考えることから始めてはいかがでしょうか?

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