昭和を代表する写真家の林忠彦。
太平洋戦争後の日本の風俗や文士、風景など多岐にわたる写真を撮影して、特に昭和の有名作家を撮ったことでよく知られています。
今回は、写真家、林忠彦が撮った超有名作家と、そのエピソードを紹介します。
太宰治、坂口安吾や川端康成には知らざる顔があったのですね。
林忠彦(はやし ただひこ)のプロフィール
1918年山口県徳山市(現・周南市)に、祖父が明治30年(1897)に開いた林写真館の長男として生まれる。
戦中・戦後を通じ、雑誌のグラビアページを中心に第一線で活躍。太宰治や坂口安吾ら無頼派文士のポートレイトをはじめ、「居合抜きの写真術」とみずからいう、被写体と対決した人物写真で知られています。
戦後の風俗を活写した作品集『カストリ時代』は代表作となっています。
晩年は癌に冒され、脳内出血のため半身不随になりながらも、東海道を中心とした写真を取り続けました。
1990年12月、72歳で死亡。
林忠彦は気合いで被写体と取り組んでいたため、普段見慣れたものであっても、鮮明な驚きを感じさせます。特に人物の場合は、相手の隙きを見極めるのが上手であって、その瞬間を捉えている写真が、人々に感銘を与えます。
林忠彦が撮った超有名人
太宰修
日本を代表する作家で、「走れメロス」は子供でも知っている名作ですね。
太宰治は、芥川龍之介に心頭していて、真似ばかりしていましたから、人妻との浮気や酒びたりの日々もよくありました。実は薬物中毒という危険な人で川端康成や他の同時代の作家に嫌われていました。芥川の真似して、なんども心中しちゃうし、有名な「生まれて、すみません」のフレーズは盗用だったりと、ハチャメチャです。
このときも、もうでろでろに酔っていて、林は小説家の織田作之助を撮りにきたのですが、おねだりして、無理やり撮ってもらった写真です。
この数年後、太宰治は自殺したので、この写真が有名になり良く使われています。
この撮影場所は、銀座の「ルパン」という1928年から90年続く老舗のバーです。太宰治ファンの聖地としても知られ、「太宰治カクテル」なんていうのもありますよ。
一度「ルパン」の足を運んで、昭和レトロを味わいたいですね。
坂口安吾
坂口安吾は戦後の、『堕落論』『白痴』が有名ですね。
破天荒で細かいことは気にしない豪快な性格でありながらも、無頼派の仲間である太宰や織田を気にかけるという、ギャップがありました。
もともと良家の裕福な家系に生まれたのに、父の時代に没落していったことや、近眼であることを恥じていたそうで、破天荒のキャラを演じてたんでしょうね。
この写真は、坂口安吾の自宅の2階の書斎です。
汚すぎますね。
「万年床は2年放置。書斎の掃除は基本的にしない」と作家仲間にえばっていたそうですよ。
この汚さには、さすがの林忠彦も、にわかに中には這入られず、唸りをあげてしまったとか。
この汚部屋からは想像も付きませんが、坂口はミニマリストで、衣服も家具も最低限しか持たない主義でした。(原稿用紙だけは無駄にもっていたんですね、、、。)
また坂口は作家の檀一夫の家に家族で居候していたことがあります。檀一夫って、女優壇ふみのお父さんです。
そんな居候の身でありながら、理由なくカレーライスを100人前、蕎麦屋にオーダーしたんです。
最終的に来たのは20人から30人前ほどですが、安吾は次々と運ばれてくるカレーを、檀家の庭の芝生にあぐらをかいて食べていたそうです。
居候の身分でありながら、この突拍子のない行動は、破天荒を超えていますよね。
三島由紀夫
愛煙家で一日30−40本、「ピース」という両切りの強いタバコを吸っていました。
灰皿にタバコがてんこ盛りになっています。
そしてサイフォンでコーヒーを飲んでるなんてオシャレですよね。
三島は、かなりのナルシストだったようです。良家のエリートでしたが作家になり大ヒット。歌手、俳優としてもデビューしていたんです。
そして、三船敏郎や加山雄三を抜いて、当時の「ミスターダンディ」に選ばれてしまっています!三島が作った「楯の会」で着ていた軍服は本物ではなく、西武デパートで作ったコスプレというところが、面白いですよね!
三島のゲイ疑惑というのは「単なる噂であって、、、。」らしいですよ。ですから、美輪明宏とは、単なるお友達だったとのこと。
川端康成
日本初のノーベル文学書をとった川端康成は、芸術にも造形が深かったようです。
「伊豆の踊り子」や「雪国」などの名作を出していますが、経済的に貧窮していた時代も長かったようです。お金がないときは、借金の催促がきても、絶対喋らす、だんまりを決め込んでいました。
目力がある人で、泥棒を目力で撃退したり、嫌な客が来ると、指文字で「カエレ」と書いたりしたそうです。
しかし、好きな女性にはストーカーしまくりでアタックするという危ない一面もあります。奥さんのことも、その執着でゲットしました。
林忠彦の撮った日本の作家
林忠彦はこの他にも、松本清張や五木寛之など、様々な文士を撮影しています。
どの作家もすごくかっこよくて独特の雰囲気を出していますね。
昭和の大作家の傑作写真集は「日本の作家」(小学館)。
坂口安吾、志賀直哉、武者小路実篤、谷崎潤一郎、川端康成、安部公房、菊池寛、斎藤茂吉、大佛次郎、石川淳、吉川英治、松本清張、小林秀雄などなど、総勢116名。
林忠彦が自らが記した、貴重な撮影秘話も加わっていて、すごく楽しめますよ。
まとめ
昭和の作家は、強者、破天荒ばかりで、さぞ、林忠彦は写真を撮るのに、苦労したでしょう。
しかし、林忠彦が撮ったどの作家の写真も、文学作品からくるイメージとは少し違う雰囲気がかんじられ、益々、その作家のことが知りたくなったり、他の作品を読んでみたりしたくなる不思議な力を持っていますね。