ダダ・シュルレアリズムを代表するドイツの画家、彫刻家のマックス・エルンスト Max Ernst。
彼は、ジークムント・フロイトの夢の理論を応用して、創造性の源泉を探るために彼の深い精神を調査した最初の芸術家の一人でした。
ここでは、マックス・エルンストがどんな画家であったのか、経歴、学歴、賞歴、代表作品、そして美術館をエピソードを含めて見ていきましょう。
マックス・エルンストの概要
- ケルン・ダダの創設者であり、シュルレアリズムでは、自意識が介在できない状況下で絵画を描くことで、無意識の世界を表現しようとした
- コラージュ、フロッタージュ、デカルコマニーの技法で新表現をした
- 後の抽象表現主義者に影響を与えた
マックス・エルンストの経歴・学歴
引用元:http://www.getty.edu/art/collection/objects/
生年:1891年4月2日
没年:1976年4月1日 享年84歳
出生地:ドイツ ブリュール
学歴:ボン大学
初期
マックス・エルンストはケルン近くのブリュールで、9人兄弟のカトリックの家庭に生まれました。父親は聴覚障害がある教師で、アマチュア画家でした。
1909年にボン大学で哲学を学びます。特記することは、エルンストは父親から絵の書き方を学んだだけで、正式な芸術教育は受けていなかったにも関わらず、ダダ・シュルレアリズムの第一人者として活躍したことです。
ゴッホやキリコの絵画に関心を持ち、独学で学びましたが、彼の哲学思想に基づいた破壊的とも言える作品を制作していきます。
第一次大戦後、詩人のジャン・アルプとともに、ケルン ダダを設立。1919年に最初のコラージュ作品を制作。夢、潜在意識、偶発的なすべての視覚世界を作り、インスピレーションと自分のトラウマに立ち向かうために自分の精神の表現をしていきました。
ダダの展示会は公衆トイレや猥褻な詩の朗読、芸術作品の破壊などもあり、この参加型展示に世間は大きな衝撃を与えられました。
成熟期
1922年、エルンストはパリに移り、シュルレアリズム グループに合流します。この時期、フロッタージュ、デカルコマニア技法を取り入れ、パリでの大規模な展覧会や舞台衣装、装置も制作。スイスでは、ジャコメッティとも親交を深め、彫刻もはじめます。作品は、無意識からの流れを画面に取り入れることで、偶然のパターンが生み出され明確な構図が作り上げられています。これらの作品のために、エルンストは幻覚剤や催眠術を多用したといわれています。
晩年
第2次世界大戦中は、敵性外国人、退廃芸術家として2回逮捕され、アメリカへ亡命。アメリカ滞在中はアクション・ペインティグを始めたり、音楽家のジョン・ケイジとの交流、多くの若いアメリカ人の芸術家を魅了し、ペギー・グッゲンハイムは彼の3番めの妻となりました。
アメリカ国籍を取得した後、パリに戻り、1954年、ヴェネツィア・ビエンナーレで大賞を受賞。1971年、80歳の誕生日を記念して、アメリカとヨーロッパを巡る大回顧展を開催。
1976年、満85歳の誕生日を迎える一日前にパリで逝去。マックス・エルンストは生存中にドイツ・フランス・アメリカで、彼の芸術作品の高い評価と批評家としての地位を確立したという稀な偉業をなし遂げました。
マックス・エルンストの代表作品と解説
Celebes 1921
引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/
中央に、象のような形をしたスーダンの文化に基づいたトウモロコシを保存するための機械がおかれています。アフリカの伝統的な彫刻の形を示唆したもので、低い地平線は生き物の力強さを表しています。頭のないマネキンはシュルレアリズムのシンボルである手術用の手袋をしています。絵のタイトル(「エレファントセレベス」とも呼ばれる)は、ドイツ語の男子の性的な言葉に由来するそうです。この作品でエルンストは本当の世界で起きている状態と夢との疑問を投げかけています。
Ubu Imperator 1923
引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/
人間の手を持った不安定な建物。背景は砂漠でこの建物が置き去りにされた印象をうけ、役に立たない鎌だけが放置されています。このタイトルは司令官と訳されますが、コマのように揺れ動く安定性のない形状から、民衆からの権威を得ることも、安全性の確保もできないことが隠喩になっています。
The Fireside Angel 1937
引用元:https://aestheticreflectionsofart.blogspot.com/
腕と脚を伸ばしたこの奇妙な生き物は、まるでアニメにでてくるキャラクターのようです。顔は喜びに満ちた表情で、踊り狂っているように見えます。そして脚は別の存在を産み出しているようで、まるで癌のような成長が広がっています。この作品は、世界の政治的出来事から直接インスパイアされたエルンストの珍しい作品の一つです。フランコのファシストがスペイン内戦で共和党を破った後、ヨーロッパ全体に広がり、混沌を示唆する絵画です。モンスターに天使としてラベルを付けることによって政治家たちの信念に疑問を投げかける意図をもっています。
Europe After the Rain II 1940〜1942
引用元:https://en.wahooart.com/
火の雨、聖書の大洪水、テロの治世の後、感情的な荒廃、肉体的疲労、そして全戦の破壊力に対する恐怖が組み合わさった傑作。スペイン内戦と第二次世界大戦の始まりの芸術的解釈において比類のないもので、ヨーロッパの運命が不明のままであることを表現しています。
The King Playing with the Queen 1944
引用元:https://www.moma.org/collection/works/81359
このブロンズの彫刻は、仲間のダダイスト、マルセル・デュシャンと同様に、チェスの形式をとりました。角のある王(おそらくエルンスト自身)は、自分自身が他の作品よりも大きく、円錐形の女王(おそらく彼の妻ドロテア・タンニング)と歩兵の前で遊んでいるようです。「Play」の意味は、新婚夫婦間の性的な遊びやゲーム、生活の秩序の確立を指している可能性があります。またこの時期現実に起こっている戦争と、チェスのゲームをかけ合わせていると思われます。
マックス・エルンストのコラージュ
マックス・エルンストは、印刷物の挿絵を切り貼りしたコラージュを写真に撮り、それを印刷して出版しました。着想から完成まで「複製技術」を利用することで、自分ではほとんど一筆も加えることなく、本来の内容を組み替えてしまう「複製されることで完成する作品」を構想したのです。この新しい価値を創造する方法は、ポップ・アートへ受け継がれていきます。
百頭女 La femme 100 têtes 1929
引用元:https://www.pinterest.com/pin/
英語のタイトルは、「The Hundred Headless Woman」となっていて、「100人の首のない女」または「100の首がない女」とも解釈されます。マックス・エルンストが制作したコラージュ小説で、19世紀の挿絵本やカタログの木版画を切り抜き貼りあわせて制作しています。
マックス・エルンストのフロッタージュ
フロッタージュとは、凹凸の上に紙をのせ、鉛筆やクレヨンなどでこすって模様を写し取る技法で、古くから「拓本」として行われている版画技法です。エルンストは、1925年に古い床板の木目に着目して、この手法を作品に取り入れたとされています。
原版の作成が必要なく、左右が反転しない既存物の形が直接紙上に浮かび上がるこの手法を、シュルレアリスムでオートマティスムの一種と位置づけました。
博物誌 1926
The Repast of Death (博物誌から) 引用元:https://www.moma.org/collection/
「博物誌」は木の板や葉、岩石など様々な素材の模様をフロッタージュで作られた作品集です。写し取られた模様の数々は彼の豊かな想像力により、奇妙な生き物に変身しています。
マックス・エルンスト美術館
Max Ernst Museum des LVR
引用元:https://www.pinterest.de/pin/
Comesstraße 42 / Max-Ernst-Allee 1
50321 Brühl, Germany
Phone +49 2232 5793–0
Fax +49 2232 5793–130
マックス・エルンストの70年にわたる芸術活動の歴史と作品がみられる美術館です。数ヶ月ごとに企画展、ワークショップもあります。ブリュール駅からもアウグストゥスブルク城からも徒歩すぐの場所なので、地理的条件もよく、緑に囲まれた高級住宅地のなかにあり、周囲の雰囲気もとてもよい環境にあります。
マックス・エルンストとセドナ
マックス・エルンストは、アリゾナ州のセドナ砂漠に1946年に移り住みました。セドナの幻想的な風景は、彼の夢の中ですでに作られていたのだといいます。現在のセドナは観光地としてすみやすい場所になっていますが、当時は砂漠の真ん中に住むのは、正気沙汰ではありません。しかし、マックスはセドナを訪れたときに、運命的なもの、既視感を感じ、家を建てなければならないと決意したそうです。晩年はパリにうつるのですが、この地は彼が亡くなるまで、偉大なインスピレーションを生み出しました。
参考:
https://en.wikipedia.org/wiki/Max_Ernst http://thewanderlife.com/sedona-arizona-imagined-landscapes/
https://www.theartstory.org/artist/ernst-max/