オーストリアの19世紀末の画家、グスタフ・クリムト。「性と死」をテーマに甘美で妖艶な金箔を使った絵が有名ですね。「接吻」や「ダナエ」などは、皆さんのよく知るところでしょう。
しかし、クリムトは女性だけでなく、風景も数多く残しました。特にアッター湖周辺が気に入ってようで、夏はそこで過ごしていたようです。有名なのは、2017年に67億円で落札された「農家の庭」ですね。
「アッパーオーストリアの農家」も1911年に、そのあたりの田舎で描かれたものですが、「農家の庭」に比べると、かなり暗い感じがしませんか?
クリムトにしては随分と地味な農家の絵を描いたわけを、ユーモアたっぷりに、推測してみました。
実はカントリーライフのほうが好き
クリムトはウイーンにアトリエを置き、芸術活動をしてました。彼の生活の派手さは、芸術性と共に有名でした。15人ものモデル兼愛人と同居していたのです。写真を見ると、いかにも、って感じがしませんか?仕事と恋愛が一緒の超えてるアーティストですね。まあ、そのぐらいじゃないと、あのぐらいセクシーな絵は描けないのかもしれませんが、、、。
でも、もしかしたら、愛欲の都会生活は芸術のためで、実はシンプルな田舎ライフが好きだったのでなないでしょうか?
クリムトは郊外の家で大勢の兄弟たちと育ち、家は貧しいながらも楽しく育ったと聞きます。ですから、子供時代の過ごした環境が一番ピッタリくると感じていたのではないか、とも考えられます。自然に囲まれた古ぼけた農家の家を懐かしく思い、心は少年時代に戻っていたのではないでしょうか?
実はゴッホに憧れていた
この絵はゴッホの技法を取り入れていて、平坦な点の筆跡で画面上部を敷き詰めることにより、奥行きを出しています。当時パリでは印象派が主流でしたから、売れていないとはいえ、ゴッホの絵も目にとまることもあったでしょう。
クリムトとは正反対の不遇なゴッホは、生存中に絵が一枚しか売れれなかったと言います。家族に見放され、貧乏で、好きになった女性には尽くふられ、唯一の友人だったゴーギャンとも、縁を切られました。
クリムトとは対照的ですね。そんな悲劇の画家ゴッホに、クリムトはちょっと憧れていたのではないでしょうか?その憧れの想いで、ゴッホの技法を真似て、いつもとは違う暗い色調にし、暗雲の人生を表現したのかもしれません。
この「アッパーオーストリアの農家」が不気味な雰囲気を醸し出しているのも、その意が含まれているような気がします。
実は金箔に飽きた
クリムトの絵というと、やはり豪華絢爛、金箔、銀箔をたっぷり使ったがほうですよね。この金箔を使用する技法は、かなりのテクニックも必要だったそうです。これは、19世紀後半から20世紀初頭にかけての、ヨーロッパ人の興味をそそったジャポニズムの影響です。
「接吻」に代表される金箔絵をクリムトは数多く描いていますが、どうして「アッパーオーストリアの農家」では金箔を使わなかったのでしょうか?
この絵は、画面下部の色とりどりの草原が、豪華な金箔の代わりと成し、自然派の段階に入り、印象派様式移行されています。これから先の絵には、金箔が殆ど使われていないんですね。芸術家としての、新しいスタイルを切り開いたのでしょうが、きっと、金箔使いにも飽きちゃったんでしょうね。金箔塗るのにテクニックも駆使しなくてはいけないし、面倒だったでしょう。それに当時から、クリムトの絵は、批判はありましたが、高値で売れていましたから、経済的に貧窮していたわけでもなかったのです。「稼いだし、面倒臭いことはいいや、金箔はもうお腹いっぱい」なんて気持ちもあったのでは?
観る人の想像を膨らませる
クリムトがどんな意図でこの絵を描いたかは別にしても、観る人達の想像を膨らませることは確かです。
暗く生い茂った木々が屋根を隠し、手前には色とりどりの草花が広がって、簡素な農家が、クローズアップされます。小さな開いた幾つもの窓からは、人影が見えるような気がしませんか?この家に住んでいるのはどんな人なのでしょう?どうして住んでいるのでしょう?それともこの家は廃墟なのでしょうか?
絵を観ているだけで、まるで小説を読んでいる気分にさせられますね。この絵からは、様々な物語が繰り広げられる素敵な魅力があります。