日本の美人画のイメージを変え、二科展のドンとよばれた東郷青児(とうごう せいじ)。
近代的な女性美に溢れた美人画は本、雑誌、包装紙に数多く使われ、私達に馴染みの深い絵ではないでしょうか?
ハンサムなダンディで社交的であった東郷青児は、描いた美人画の数が付き合った女性の数といっても過言ではないでしょう。
ここでは、東郷青児の主だった恋人たち、愛人たち、結婚した妻たちと娘を見ていきましょう。
岸たまき
引用元:https://www.kanazawa-museum.jp/yumeji/about/p02_fate.html
岸たまきは竹久夢二が一目惚れをして、会って数ヶ月で結婚してしまいます。まあ、しかし熱愛というものは覚めるもので、3年後には離婚。けれど夢二は離婚後もたまきとの恋愛関係は続け、夢二がデザインした版画、千代紙、生活用品などを売る「絵草子店港屋」という店をもたせます。
その店に日参するのが若き東郷青児。この時たまき32歳、東郷17歳。もちろんこの店に通う目的は、当時流行美人画を描く夢二の作品に触れるためでしたが、店の手伝いをするうちの、ふたりは深い仲になってしまいます。初めての大恋愛が、大物美人画家の元妻、それも15歳も年上とは、ドラマチックです。
夢二は二人の関係を知ると大激怒!もう離婚しているのだから元妻が誰と付き合おうが自由なはずですが、妄想にとりつかれ、夢二はたまきを斬りつける事件まで起こしてしまいます。
東郷には大きな影響はなかったようですが、これを機会にたまきと東郷は会わなくなります。
妻 永野明代 (ながの はるよ)
中村修子
東郷にとってはパフォーマンスの一種だったのかもしれませんが、修子には人生最大の汚点。このあと、東郷はすぐみつ子と心中をはかります。
数年前には芥川龍之介が愛人と心中未遂をおこしていますから、この時代の芸術家は「愛人と心中」がステイタスだったのかもしれません。
修子がその後どうなったかは知る由もありませんが、ごく普通の人と再婚できたのだと願うばかりです。
宇野千代
宇野千代と東郷青児 引用元:https://designroomrune.com/magome/daypage/03/0330.html
同い年の作家宇野千代と1929年から1933年まで同棲をします。
宇野千代は実に簡単に恋をし、数年で別れる恋愛遍歴をもつ女性で、彼女も男性の精神性を愛するというより、才能に夢中になるタイプです。ある意味、東郷と宇野は似合いのカップルだったでしょう。
ふたりの出逢いは、みつ子との心中後、宇野がガス心中についての取材のために東郷に会い、そのまま同棲というよくいえば情熱的なものでした。
二人の付き合いは宇野千代著の『色ざんげ』で書かれていますが、そのことが事実であれば随分とシュールな恋愛だったといえます。(はたして彼らの関係は恋愛と呼べるのか?)
西崎みつ子
西崎みつ子は海軍将校の令嬢。東郷より一回り年下で、1928年に出会ったときはみつ子は19歳。
東郷は雷に打たれたようなしびれとともに、みつ子への恋に落ちてしまいますが、クリスチャンでありお嬢様である彼女との恋愛は、みつ子の家族が許すはずもありません。
その失意で中村修子と披露宴をあげてしまったりするのですが、その一ヶ月後は、みつ子と大手町の自宅でガズ心中。東郷はかなり精神的に参っていたようですね。ふたりは命はとりとめますが、みつ子は実家に軟禁状態になります。
そこで、宇野千代との付き合いが始まります。しかし、宇野と東郷はお互いの芸術的養分を十分吸い取った後別れ、妻明代とも離婚し、みつ子と結婚。その後東郷が亡くなるまでふたりは一緒に暮らしました。
みつ子との間には娘も授かります。娘 東郷たまみ(1940−2016)は、水谷八重子、朝丘雪路とトリオを組んで歌手デビューし、その後画家になりました。二科会会長も務め、東郷作品を広める活躍をしています。
東郷にとってみつ子は、ファム・ファタルであったようで、彼女との結婚後、二科展でどんどん勢力を伸ばしていき、あの西洋のおとぎ話の雰囲気を待つ、エアブラシで描いたようなファンタスティックな女性像を完成していきます。
東郷青児の愛する女性たち
引用元:http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/site/fukuyama-museum/94992.html
東郷青児の恋愛感、結婚感というのは、あの時代の風潮に洗脳されていたのではないかとも感じます。
結婚はして「妻」という立場の女性をもちつつ、様々な女性と恋をする。そういった芸術家が大変多く、例にあげれば同時代の藤田嗣治も同じように結婚、恋愛、離婚を繰り返しています。
付き合った女性たちは、東郷に新しいインスピレーションを与えたのは確かでしょうが、彼の芸術に多大な影響は及ぼさなかった気もします。しかし、ステイタスに基づいて、恋愛、結婚を繰り返してきた東郷ですが、彼女たちを本気で愛していなかったわけではありません。現在の私達には、彼の愛は理解し難いものですが、東郷青児の私生活を知れば知るほど、奥行きのある女性への愛を知ることになるでしょう。