20世紀のイギリスを代表する新表現主義の画家 デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)氏。
ポップアート運動の重要な貢献者であり、プールの絵でよく知られています。(ご自身もプールで泳ぐのが好きで日課になっているとか。)
80歳を過ぎても進化し続ける美術界の巨匠、デイヴィッド・ホックニー氏の作品やエピソードを含んだ経歴、学歴、賞歴、エピソードを紹介します。
また展覧会やオークションでの作品価格も見ていきましょう。
デイヴィッド・ホックニーのプロフィール 経歴・学歴・賞歴
生年月日:1937年7月9日
出身地:イギリス ブラッドフォード
学歴:ブラッドフォード美術学校、ロンドン王立美術大学
ホックニー氏は、ブラッドフォード在住の両親の元、5人兄弟の第4子として生まれ、ロンドン王立美術学校で同じくポップアートの先駆者 ロナルド・B・キタイ、ピーター・ブレイクと出会います。
フランシス・ベーコンの作品に影響を受けながらも、若手美術家でイギリス初ポップアート展覧会「ヤング・コンテポラリーズ」展に参加します。
イギリス王立美術学校が、女性の肖像画を描かなければ卒業させない条件だったので、ホックニー氏は自身で卒業証書を作成しました。また、最終試験のエッセイの提出も、作品で評価するべきだと抗議し、大学は彼の主張を受け入れました。卒業後しばらくの間は、メイドストーン美術学校で教鞭をとっていました。
1964年にロサンゼルスに五人、アクリル素材で写実的な明るい色彩のプールの一連の作品を創っていきます。
ホックニー氏は同性愛者であることを公言していて、作品にも男性同士の愛をテーマにしたものがたくさんあります。同性愛の本質を表現した革新的なもので、自分と恋人の肖像画を繰り返し描いています。
1970年代に入ると写真作品の活動も始めます。「ジョイナー」とよばれるポラロイド写真の合成画像、写真コラージュを作成します
この「ジョイナー」は偶然に創り出されたものです。絵画のためにリビングルームをポラロイド写真を撮っていき、張り合わせていくことで新しい芸術性を見出したのです。
1980年代には、アーティストが画面に直接スケッチできるiPadの前身「クオンティル・ペイントボックス」を使用し作品を創っています。
2000年以降は、iPad、iPhoneを使い、肖像画、風景画、静物画を描くことで、色彩への取り組み方は根本的に変わっっていきました。
絵画、版画、写真、デザイン、舞台装飾と様々な分野でいち早く最新のテクノロジーを取り入れ、今もなお新しい技法にチャレンジしている巨匠です。
主な賞歴
- 1967年 ジョン・ムーアズ絵画賞
- 1985年 ニューヨーク国際写真センター賞
- 1997年 コンパニオン・オブ・オーナー
- 2012年 ローヤル・アカデミー・オーダー・オブ・メリット
デイヴィッド・ホックニーの代表作品と価格
アメリカの詩人のウォルト・ホイットマンの同性愛を言及する詩からの引用
カルフォルニアドリーミングシリーズのひとつで、ホックニーを後援したベティ・フリーマンを描いた作品。2008年のクリスティーズオークションで約12、5億円で落札。
ホックニーの恋人が飛び込んだ後の水のしぶきを細心の注意を払って描き、家、木、舗装、プールの端によって形成された垂直線と水平線のしっかりとした位置が計算されています。約3.5億円で落札。
メキシコシティに向かう途中で車が故障し、アカトランにあるホテル ロマノアンヘレスに滞在した時の作品です。
60枚のキャンバスで、一つの大きな絵を完成させています。オーストラリア国立博物館が約6.1億円で購入。
ゴッホを連想させる楽しさで、2つのカンバスに自然環境の鮮やかで変化する色、形、パターンを描いた作品。
芸術家の肖像画―プールと2人の人物
カルファルニアのマリブの同性愛カップルを美しく描いた作品。2018年クリスティーズ・ニューヨークで行われた現代美術セールで、現存作家としての最高金額102億円。ホックニー氏は1972年に、この絵を約2千万円で売却しています。
ホックニー氏自身は「私の作品のオークション価格は、私とは何の意味もありません」と断言し、オスカー・ワイルドの名言「あらゆる種類の芸術が好きなのは競売人だけだ」を引用しています。
デイヴィッド・ホックニーの日本での展覧会は?
日本でのホックニーの2019年展覧会は、2月に銀座の「THE CLUB」で『ホックニーと福田平八郎の出会い』が開催されましたが、2020年以降の予定はまだ公表されていません。
海外ではロンドンの「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」で『Drawing from Life』が、2020年2月から6月に開催される予定で、ホックニー氏が紙やiPadに描いた人物がのドローイングが展示されます。
デイヴィッド・ホックニー プルーストの質問表からの考察
相手のの生活、考え、経験、人生観、価値観を端的に知るために、フランスの作家マルセル・プルーストが考案した35の質問があります。ホックニー氏の回答をいくつか上げて、彼の生活や価値観を考察してみたいと思います。
ひとつ変えることができるなら変えたいところ:聴力
ホックニー氏は42歳ごろから、難聴になり補聴器を使用していますが、年々聞こえにくくなっているそうです。
補聴器の使用は面倒くさいそうですが、より良い空間感覚を身につける機会が与えられたとも感じているようです。
「自分の仕事のスペースをもっともっと気づかせて、より明確になっているように感じます。目が見えない場合は、音を使って空間を見つけるように、音が聞こえなければ、他の感覚を使って、それをみつけだすことができます」と語っていました。
ホックニー氏の鮮やかな色彩の作品は、轟音や禍々しい響きなどは伝わってくることはなく、煌めく光と静寂を感じてしまうのは、現実の音をシャットダウンしているからなのかもしれません。
自分のいちばん残念に思う資質:すぐに人に道を譲ってしまうところ
「他人のいちばん残念に思う資質」には「すぐ人に道を譲ってくれないこと」と答えています。これは、彼の作品制作で、自分の意志にそぐわない仕事も頼まれると断れない性格を語っているのかとも考えましたが、制作過程をみればそうでないことがわかります。単純に、ドライブ中によく割り込みされるとか、席を譲ってしまうとかの現実的な出来事のような気がします。少しヤダな思いながらも「どうそ」と言って人に道を譲ってしまうホックニー氏を想像すると、微笑ましいですね。
人生最良の瞬間とその場所:幸福というものは、過去を振り返る愉悦であるように思える
これは、ホックニー氏が今までの人生に非常に満足しているということだと思えます。他の質問を見てもわかるように、彼の成し遂げてきた藝術、人間関係、生活環境の全てが充実していて、後悔のない人生を送っているのが伝わってきます。
健康状態(ヘビースモーカーで心臓発作を数回起こしている)や成し遂げた業績から言えば、もう達観してもいい時期なのに、今もって次々と新しいテクノロジーを取りいれ、新しい表現法を生み出しています。しかし、その姿勢はがむしゃらに情熱をもって突き進むという姿勢ではなく、穏やかで余裕をもちながら向き合っています。
「死ぬときは自宅で笑って死にたい」と語るホックニー氏。典雅な美に包みこまれる作品を見ていると、現実の生活を送りながら、自身の小宇宙で生き、瞬間に充実し、その連続性の重要さを感じてやみません。