正倉院宝物は,そのほとんどのものが奈良時代,8世紀の遺品であり,大陸から舶載されたり、日本で製作された美術工芸の諸品や文書などです。
あいかし、これらの歴史的のある芸術品は、「国宝」には指定されていません。
法隆寺、興福寺、東大寺などの工芸品は、国宝となっているものが、多数あります。
なぜ、「正倉院」の美術品だけが、「国宝」にならないのか?また、ユネスコ遺産になっている正倉院の建物、正倉院正倉一棟のみが、「国宝」とされている理由を調べてみました。
正倉院の代表的宝物
「瑠璃の坏」 るりのつき
22コのガラスの輪の装飾が施された「瑠璃の坏」はペルシャ・ササン朝(イラク)からもたらされた宝物で、ガラスの輪の文様は、当時のペルシャ・ササン朝のガラス工芸の大きな特徴の1つです。
「瑠璃の坏」の素材は「コバルト」を用いて発色加工された「アルカリ石灰ガラス」が使用されており、同様の品々が朝鮮半島からも出土していることから、一説では「古代ペルシャの工芸技術」と「朝鮮半島の工芸技術」が結び付いた一品であるとも云われています。
漆胡瓶 しっこへい
ペルシャから西安を通して日本の正倉院(奈良)へ伝来した正倉院の数ある宝物の中でも、威容を誇る珍品です。
漆胡瓶は、名前から察することができる通り「水瓶(みずがめ)」です。
瓶の本体部分は、装飾が施されており、これに「把手(とって)」が本体部の側面に付けられ、足元は「台脚(だいきゃく)」が備え付けられています。
瓶には「鳥」「獣」「花」「雲」の文様が描かれており、「平脱(へいだつ)」の技法で制作されています。
「平脱の技法」とは、金銀の薄く延ばした板を、あらかじめ削り取った文様に貼り付けて、その上から漆を塗り、最後に金銀の部分を瓶の表面と合わせて平らに仕上げて行く技法です。
螺鈿紫檀五絃琵琶 らでんしたんのごげんびわ
琵琶が作られたのは、中国で宮廷文化の「演奏」が盛んになった玄宗皇帝の頃です。
正倉院で保管されている螺鈿紫檀五絃琵琶は、制作された中国にも現存しておらず、世界で唯一、日本の正倉院だけに現存しているお宝中の超お宝です。
琵琶の「撥面(ばちめん)」の部分には、「螺鈿(らでん)」で「ラクダに乗るペルシャ人」が描かれています。
「螺鈿」とは「木画の技法」に準えたもので、夜光貝などの素材をあらかじめ模様に沿って切り抜いておき、同時に琵琶の本体の木地も模様に沿って切り抜いておき、最後に琵琶本体の木地へハメ込んで装飾を完成させていく技法です。
部品の素材には、珍種の1つでもある「夜光貝(やこうがい)」の貝殻が使用されており、花ビラの文様1つに対して、30cm級の大きな夜光貝からやっと1枚取れるほどの贅沢さを持って制作されています。
「西の彼方の国々から伝来した技法」と「インドの南の海の珍種と言える貝」が中国の唐・西安で結びつき、世にも美しい形となって奈良へもたらされました。
鳥毛立女屏風 とりげりつじょのびょうぶ
樹木の下に唐風の女性を一人ずつ描いた六枚一対で、現在ではほとんど脱落してしまいましたが、女性の着衣などに鳥の羽毛が飾られていました。
江戸時代にかなり修理補筆が行われており、第6扇は顔をのぞいてほとんど住吉内記の補筆であることが、わかっています。
これらの世界的価値のある美しい美術品が、何故、国宝に指定されないのでしょうか?
「国宝」とは?
国宝(こくほう)とは、日本の文化財保護法によって国が指定した有形文化財(重要文化財)のうち、世界文化の見地から価値の高いものでたぐいない国民の宝たるものであるとして国(文部科学大臣)が指定したものである(文化財保護法第27条第2項)。建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡・典籍、古文書、考古資料および歴史資料が指定されている。
出展:ウィキペディア
重要文化財であれば、「国宝」に指定される可能性はあるのですが、正倉院の宝物は「重要文化財」にも指定されていません。
皇室の所有物は指定対象外
皇室関係品を、国宝等の指定対象外とするということは、文化財保護法に明文規定があるわけではありません。
しかし、第二次世界大戦以前からの慣例となっていて、重要文化財にはしないのです。
皇室財産を管理するのは宮内庁であり、国宝を指定するのは文化庁で、そもそも所管が違うというこでもあります。
したがって正倉院宝物は、重要文化財、国宝の指定対象となっていないのです。
何故、正倉院の建物だけが「国宝」なのか?
正倉院の建物、「正倉院正倉 1棟」が、建築物として、1997年に、国宝に指定されています。
この建築物は、ユネスコ世界遺産にも指定されていますね。
校倉造の大規模な高床式倉庫である正倉院建築は、歴史的価値が高いものです。
正倉院正倉1棟が国宝に指定された背景には、「古都奈良の文化財」がユネスコの世界遺産に指定されたことにあります。
世界遺産には、所在国の国内法で文化財に指定されていなければならないという条件があるので、正倉院が除外されそうになったのです。
この条件を満たすために、正倉院の建物が「正倉院正倉」として国宝に指定されました。
世界遺産登録の前提条件として、文化財として保護を受けていることが求められるため、例外的措置として指定されたのです。
まとめ
正倉院は、天皇家所有のもので、皇室関係品は「国宝」指定は、慣例として除外されることがわかりました。
ですから、正倉院の宝物は、「正倉院一棟」を除き、「重要文化財」でも「国宝」ではないわけです。
重要文化財に指定されると、文化財所有者は義務として、文化財の適切な管理と可能な限りの公開を求められるといいます。
そして、指定登録のための調査が行われ、歴史的背景や希少性という情報が整理され、保存や管理の状況が明らかにしなければなりません。
皇室関係品であれば、そのような調査や情報の公開は難しい、という点でも正倉院宝物は、「国宝」に指定されないのでしょう。