近代日本画の先駆者 竹内栖鳳(たけうち せいほう、1864〜1942)。
京都画壇の大家であり、従来の日本画の形態を変え、西洋画の技法や写実性を取り入れ、独自の画を追求しました。自然美に重点を置いた風景画、骨格の正確さを用した人物画、感触がわかるような動物画と、どれもうなってしまう作品ばかりです。
ここでは、栖鳳の眼力の鋭さがあらわれている動物画、ライオン、猫、雀、虎の画を取り上げてみたいとおもいます。
竹内栖鳳の獅子 ライオン
大獅子図」
これまでの日本画では虎などの猛獣を実写することはなく、師の手本を書き写すだけでした。とくにライオンは伝説上の生き物として捉えられていたのです。
パリ万博視察のために一年近く渡欧していた栖鳳は、本物の猛獣を見て、リアリティのある動物画に目覚めます。帰国後は、ライオンの図版を買い求め、また足繁く動物園にも通い、プロの写真家に何十枚も撮影してもらい、その場でも写生をしました。
「大獅子図」では、勇猛な印象と立体感を出すために顔や前足が実際よりも大きく描かれています。顔の部分は細いひげや鼻の密集した短い毛がリアルに表現されています。
この屏風絵は非常に好評だったので、作品発表後は、獅子をテーマにした作品の注文が殺到し、栖鳳も意欲的にライオンを描いていたとのこと。
竹内栖鳳の雀
田家喜雀
喜雀
百騒一睡
栖鳳は生き物の中で、雀が一番好きだったそうです。雀の短い「チュ、チュ」という鳴き声が気にっていて、その音までの表現を追求していました。
一羽一羽の動作が全て違い、ちょこちょこと動き回る姿の一瞬をとらえた動体視力と、観察力は際立っています。また『喜雀』では171cmx375cmの金屏風に、雀しか描かないという大胆さでありながら、見事な躍動感を表現しています。落語の「抜け雀」ではないけれど、まるで今にも動いて屏風から飛び出してきそうです。ありきたりな日常にみられる鳥でありながら、日本人の心に根付いている雀への栖鳳の愛着の深さが感じられます。
竹内栖鳳の猫
班猫
栖鳳は野生動物の写生のほかに、自宅でも多くの動物を飼っていました。犬、猫、ウサギ、キジ、そして猿までも庭の小屋で飼育していました。猿は足かせをつけられ自由に動くことはできなかったのが『飼われたる猿と兎』で見られ、可愛そうに感じます。しかし、現代のように動物愛護の精神が浸透していなかった時代なので、仕方のないことでしょう。
この『班猫』も飼い猫で、八百屋のおかみさんから自分の絵と交換して譲り受けました。
『班猫』の絶妙な構図には、誰もが魅了され、つややかな柔らかい毛並みと感触を感じ取ることができます。また群青の混じった緑の目は金泥で縁取りされて怪しさと可愛らしさの両方が読み取られ、まるで美人画のようです。
しなやかな後ろ姿でありながら、もっちりとした腰回り、長い白い首。伸びた前足の清らかで無防備ともいえる可愛らしさ。そして振り返った顔には、怪しく光る瞳。鼻の下の斑点は舌なめずりをしているようにも見えます。盛夏の夜に、人影のない川べりで、突然出くわした年齢不詳の妖を発する女性のような妄想さえ抱かせます。
省筆での実体感
栖鳳は対象への正確さを目指していましたが、晩年はできるだけ筆数を少なくし、実態を表現していきました。
薄い滑らかな輪郭線に、絵の具のにじみで体毛の触感を表し、軽やかな画風を極めたといえます。
勇猛な虎であるには変わらないのですが、獰猛という雰囲気よりも柔和な軽やかさをだしています。飼い猫のような愛らしさを見せながら、野生であることを忘れさせない印象は、栖鳳の自然の中で生きる動物への愛情を映し出しているかのようです。
参考:
別冊 太陽 「竹内栖鳳」
https://en.wikipedia.org/wiki/Takeuchi_Seih%C5%8D https://www.thegreatcat.org/the-cat-in-art-and-photos-2/cats-asian-art/takeuchi-seiho-1864-1942-japanese/